癌に対するハイパーサーミアの抑制機序

最終更新: 6月15日

一般的に、35℃位の低体温が続いていると、免疫力が低下すると考えられています。

NK細胞や細胞傷害性T細胞の機能も低下してしまうため、癌になり易い状態になるのです。

人間の身体には、毎日5000~6000個ほどの癌細胞が発生しています。

しかし、全ての人が癌にならないのはNK細胞が巡回し、直接癌細胞を攻撃し駆除しているからだと言われています。

低体温やストレスなどで免疫力が低下すると、癌の発生率は上昇すると同時に、癌細胞を駆除するNK細胞の能力も低下して行くので、癌が育ち易くなるのです。


古代ギリシャの医師、ヒポクラテス(紀元前460~370年)も「癌は熱に弱い」と記しています。

昔から、皮膚の表面に現れる皮膚癌や乳癌には、発熱によって縮小したり消えて無くなったりする報告が数多くあるのです。

外部温度環境と癌細胞の生存率について調査した研究が過去に行われていますが、その結果によると、環境温度が1℃上昇するだけで癌細胞の生存率は変化し、42℃以上1時間の加温で癌細胞の生存率は100分の1まで低下することが分かっています。


このような基礎研究を踏まえ、癌組織内の温度を上げる治療(ハイパーサーミア)が行われるようになりました。

以前から行われてきた研究結果より、ハイパーサーミアの効果には、次のような理由が挙げられています。


1:腫瘍組織内では血流が少ないところで熱がうっ滞するため、腫瘍組織の温度が正常組織より上昇しやすく、癌細胞に直接的なダメージを与えることができる。


2:血流の悪い腫瘍組織を加温すると、癌細胞に抗癌剤が届きやすくなる。


3:細胞分裂が盛んな癌ほど抗癌剤が与える癌細胞へのダメージが強く、抗癌剤により癌細胞がDNA障害を受けた後、DNAの修復のためDNA修復酵素が働くが、熱があるとDNA修復酵素の作用が低下して癌細胞が死に至りやすくなる。


4:腫瘍組織の低酸素状態で、癌細胞は嫌気性解糖によりエネルギーを生み出しており、結果として乳酸が腫瘍細胞内に蓄積し、酸性状態になっているため、熱による癌細胞への殺傷能力が高くなる。


時代が進むに従い、更に研究が進みます。

新たに解明されてきた分子レベルの発見から、ハイパーサーミアが癌に対しての効果を発揮する理由について、これまでになかった機序が登場してきました。


1:マイルドハイパーサーミア(39~40℃までの加温)によって、腫瘍組織内の血流が増加し、腫瘍組織内部の酸素分圧が増加します。

これにより、低酸素誘導因子(HIF-1α)の減少が起こり、化学療法や放射線治療に対しての感受性が改善する効果が期待できます。


2:43℃以上の高い温度で行う電磁波温熱療法では、正常組織の細動脈が拡張するため、正常組織の血流が増加します。

その影響を受け、逆に腫瘍組織内の血流はスティール現象によって低下し、腫瘍組織内の酸性化や、赤血球や血小板の凝集、腫瘍血管内皮の熱障害を発生します。


3:癌細胞に対して腫瘍免疫の増強、例えばHSP70(ヒートショックプロテインの一種)の増加、リンパ球の免疫監査力の増強、インターフェロンγの産生などがみられます。


4:RNA遺伝子転写因子であるNF-κB活性化の抑制がみられます。


5:癌細胞中での低酸素誘導因子が減少し、その結果、P糖蛋白減少や多剤耐性遺伝子蛋白減少、CREBなど生存シグナルの減少、CD95細胞死シグナル(Fasシグナル)の増強などが関与して、抗がん剤や放射線に対して癌細胞毒性が高くなります。


6:腫瘍組織内の血流増加によって薬物分配が改善し、抗癌剤が腫瘍組織に届き易くなります。


7:誘導型一酸化窒素ガスにより、腫瘍組織内に出来た細胞傷害性高濃度の一酸化窒素ガスを発生する機序が働きます。


8:低酸素条件下、嫌気的解糖系でエネルギーを産生して生きている酸性状態にある癌細胞が熱の影響で死に至り易くなります。


また、免疫に関わる効果についても、次のようなことが考えられています。

39~42℃程度の軽い電磁波温熱療法(マイルドハイパーサーミア)を行うことにより、免疫系の活性化をもたらし、癌への攻撃が始まるのです。

理由の一つとして、NK細胞の表面上に存在するNKG2Dという受容体が活性化するとともに、癌細胞表面にある癌の目印であるMICA/Bも活性化しますが、MICA/Bが強く発現している癌細胞であれば尚更、NK細胞からの攻撃を受け、癌は死に至ることになるからです。

更にまた、マイルドハイパーサーミアでは、ヒートショックプロテインを癌細胞内に作るため、ヒートショックプロテインと癌蛋白との複合体が細胞表面に出てきます。

細胞傷害性Tリンパ球が癌細胞を破壊すると、ヒートショックプロテインと癌抗原の複合体が飛び散り、それを樹状細胞が取り込んで行きます。

これにより、樹状細胞は細胞傷害性Tリンパ球へ、より効率的に癌を抗原提示し、癌に対しての免疫力が上がることになる訳です。


生理学の新たな発見とともに、様々な生命の構造が解明されてきました。

今後も更に、複雑に入り乱れ絡め合う生命の糸が次々に紐解かれて行くものと思います。

経験的な実証から、ハイパーサーミアへと発展してきました。

これからも、ハイパーサーミアが効果を生む新たな機序が解明され、書き加えられて行くでしょう。



嫌気性解糖:

酸素を利用せず、糖をピルビン酸や乳酸に分解して、エネルギーを産生する反応を指します。酸素がある条件の下ではピルビン酸まで、酸素がない条件の下ではさらに乳酸やエタノールなどに分解されます。


低酸素誘導因子:

低酸素誘導因子は、細胞に対する酸素供給が不足した環境により誘導されるタンパク質で、転写因子として機能します。癌の病巣においては栄養不足や細胞外pHの低下、血流不足による酸素供給不足状態が認められますが、癌細胞が生き延びるためには新たに血管網を構築することで病巣への血流を増加し、低酸素状態を改善する仕組みをもっています。


HSP70:

熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン)とは、細胞が熱などのストレスを受けたとき、細胞を保護する蛋白質の一つで、分子シャペロンとして働きます。ストレスタンパク質とも呼ばれています。HPSは分子量によって名前があり、Hps60、Hps70、Hps90、は分子量が其々、60、70、90kDaの蛋白質です。


インターフェロンγ:

インターフェロンγ(IFNγ)は、活性化Tリンパ球およびNK細胞によって産生され、ほぼ全ての免疫応答や炎症応答に関与する多指向性サイトカインです。IFNγは、T細胞、B細胞、マクロファージ、NK細胞の他、様々な細胞種の活性化、増殖、分化に関与しています。IFNγは、上皮細胞、内皮細胞、結合組織の細胞や単球系細胞株などの抗原提示細胞のMHC発現を増強します。腫瘍細胞に対する細胞障害ではマクロファージ活性化因子(MAF)として働き、抗腫瘍効果をもたらします。


NF-κB:

NF-κB(nuclear factor-kappa B)は転写因子として働く蛋白複合体です。ストレスや紫外線の刺激により活性化され、免疫反応で重要な役割を果たす転写因子の一つとされています。急性および慢性的な炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの生理現象に関与しています。悪性腫瘍では一般的に、NF-κBの活性化が認めらます。


P糖蛋白:

P糖蛋白質は細胞膜上に存在し、毒性のある化合物などを細胞外へ排出する働きがあります。P-gpはABC輸送体のMDR/TAPサブファミリーに属する分子で、腸や肺、腎臓の近位尿細管、血液脳関門の毛細血管内皮細胞等に見られます。


CREB:

CREB(cAMP response element binding protein cAMP応答配列結合蛋白)は、神経細胞ニューロン間の恒久的接続を確立する蛋白質を、転写・翻訳するのに必要な因子です。この分子をブロックした場合、タンパク質合成や新たなシナプスの発達が妨げられ、その結果長期記憶の形成が阻害されます。


CD95:

CD95(FasまたはAPO-1と同義語)抗原は、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属し、アポトーシス(プログラム細胞死)を媒介します。


Fasシグナル:

Fasリガンド(別名:CD95L)は、アポトーシスを誘導するサイトカイン(デス因子)です。FasリガンドやTNF(腫瘍壊死因子)は盛んに研究され、いろいろなアポトーシス誘導系の中で、細胞外のシグナルから細胞死に至るまでの経路が明らかになっているのは、デス因子によるアポトーシス誘導系だけです。


誘導型一酸化窒素ガス:

誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS) はマクロファージなど免疫系の細胞に含まれ、炎症に伴い発現誘導されます。iNOS発現誘導による過剰なNO生成は正常細胞のDNAを傷害し突然変異を誘導するなど癌の発生に深く関係していると考えられています。


NK細胞:

ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、細胞傷害性リンパ球の一つです。特に腫瘍細胞やウイルス感染細胞を自然に排除する役割があります。特定の細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞とは異なり、感作の必要がないという意味から、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)と名付けられています。


NKG2D:

MICA/Bに対する受容体として知られており、異常細胞や癌細胞を攻撃する免疫細胞に発現しています。例えば、NK細胞は癌細胞表面上にあるMICA/Bを認識することで、癌細胞を攻撃するようになります。


MICA/B:

MICA (MHC class I chain-related gene A)、MICB (MHC class I chain-related gene B)は、主要組織適合抗原(MHC)に対し、非古典的な組織適合抗原と呼ばれており、癌やウイルス感染に対しての免疫応答に関与しています。MICAとMICBは、正常細胞には殆どみられませんが、癌細胞や感染症などで何らかの障害を受けた細胞に見られます。


樹状細胞:

樹状細胞は、樹のような形の細胞です。白血球の免疫細胞の一つで、ウイルスや細菌などの病原体や異物を発見すると、貪食し特徴を覚えます。その特徴をリンパ球へ伝えることにより、リンパ球は細胞傷害性T細胞となり、その病原体や異物を攻撃するようになります。


細胞傷害性Tリンパ球:

細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)は、リンパ球のなかのT細胞のひとつで、ウイルスや癌細胞などを認識して破壊します。病原体を殺すという意味で、キラーT細胞とも呼ばれています。

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